ロミオvsジュリエット

〜T〜

 

その日、ヴェローナの名家・キャピュレット家は大勢の紳士淑女で賑わっていた。

キャピュレット家のパーティーは毎回様々な趣向が凝らされることで有名であり、ヴェローナ中の名士が集う。今また新たな招待客が到着し、会場が更にどっと沸きたった。客人の名はモンタギュー。キャピュレット家とは家族ぐるみで親しいつきあいをしている一族の家長である。

「これはこれは、ようこそおいで下さった、モンタギュー殿。」

「毎度ご盛況なようで羨ましいですな。我が家ではパーティーなんぞ開いても、この半分も集まりませんぞ。」

キャピュレット氏に挨拶するモンタギュー氏の背後に、爽やかな容貌の青年が立っていた。キャピュレット氏がその青年に視線を移すと、モンタギュー氏は思い出したように青年を紹介した。

「本日は、我が一人息子を連れて参りました。何卒宜しくお願いします。」

「ロミオといいます。若輩者ゆえ右も左もわかりません。どうぞ宜しくご鞭撻の程お願いします。」

キャピュレット氏は目を丸くした。

「おお、貴方がロミオ君でしたか。噂に違わぬ好青年ですな。これからも両家の絆を深めるため、こちらこそ宜しくお願いします。」

キャピュレット氏はロミオとは初対面だったが、ロミオの噂はヴェローナで評判の貴公子としてキャピュレット氏の耳にも入っていた。噂どおり、明るく爽やかで社交的な青年であり、キャピュレット氏は彼に好感を抱いた。

「せっかくご子息を紹介して頂いたのだから、こちらも娘をご紹介したい。これ、誰ぞジュリエットを呼んで参れ。」

間もなく連れて来られた娘は、まだ少女というべき年齢にしか見えなかったが、その可憐な美貌は周囲の空気の色を変えるに充分だった。

「我が一人娘、ジュリエットです。ご覧の通り、まだまだ世間知らずの小娘ですが、どうぞ宜しく。・・・これ、挨拶せぬか。」

父親に小突かれて、ジュリエットは慌てて挨拶の仕草をした。彼女はロミオに視線を釘付けにされていたのだ。一方のロミオも、ジュリエットを呆然と見詰めていた。

「おやおや、若い者同士、早くもすっかり気に入られたようですな。」

「いやはや、青春ですな。」

大人たちは好き勝手に笑い合っていた。そんな会話をよそに、二人は真剣な、油断のならぬ視線を交し合っていた。

 

 

実は、ロミオとジュリエットは誰にも秘密の趣味を持っていた。二人とも陰謀が大好きなのであった。人を自由自在に操り、精神的にも社会的にも徐々に追い詰めていく過程のスリル感と知的遊戯感は何物にも変えがたい高揚感を伴う楽しみであった。

そして二人は、本能によって互いの中に自分と同類の内面性を見出したのである。自分と同質・同等の陰謀家の資質と嗜好を相手の内に見て、これまでにない感覚に囚われ、呆然としてしまったのだ。

宿命の対決は、今その幕を切って落とした。

 

 

「ふうん、ロザラインね・・・。」

ジュリエットは呟いた。先ほど、侍女によるロミオの身上調査報告でひっかかったのがそれであった。ロザラインはヴェローナでも評判の美女であり、街中の若者たちの憧れの的である。ロミオもご多分に漏れず彼女に惚れているようだという話である。それも、かなり積極的なアプローチをしているようで、遠からずロザラインの方でもロミオになびくのではないかと噂されていた。

「なんだ、意外に俗物なんじゃないの。まあいいわ。とっかかりはこれにしましょ。」

ジュリエットは年齢に似合わぬ毒のこもった微笑を浮かべた。

 

 

「ロザライン、一体どうしたんだ。つい先日までは、親しく接してくれたじゃないか。どうして突然そのようにつれなくなってしまったんだ!」

ロミオの叫びに、美しいロザラインは振り向きもしなかった。

「ご自分の胸に手を当てて、よくお考えになられることですわ。ここ数日、ヴェローナの街中に広まっている噂をお聞きになりませんでしたか。」

ロミオはぐっと詰まった。彼自身もついさっきその噂を耳にして愕然としたものだった。その内容は、ロミオがここ1ヶ月ほどの間にどこの家の何嬢を口説いただの、どこの娼館にどれだけ出入りしているだのといった、不名誉な話ばかりである。今彼はそれを聞いて、慌ててロザラインの所へ釈明に来たのだった。

「あんな根も葉もない、無責任な噂話を、君は信じるというのか。どうして噂よりも僕自身を信じることができない?」

「よしんば噂が事実でなかったとしても、そのような評判の立った殿方と一緒にいたら、私まで変な目で見られてしまいます。わざわざそんな危険を冒すほど、私も男性に不自由しているわけでもありませんわ。」

ロザラインはそう言い放つと、足早に歩き去った。ロミオはそれ以上追うことができなかった。

しばらく呆然と立ち尽くしていたロミオは、やがて両眼に暗い怒りを宿しつつ、呟いた。

「・・・ジュリエット、お前か。見ていろよ!」

 

 

ロミオがロザラインに手ひどく振られたことを知ったジュリエットはご満悦であった。

「いい気味だわ。ロミオがあのすました顔をどんな風に歪ませたのか、見てみたかったわね。」

彼女は今、陰謀を成功させた達成感に浸っていた。この快感は、一度味わうとやめられなくなってしまう。今回は、自らライバルと認めたロミオを嵌めたことが、一層彼女の充足感を大きなものにしていたのだ。

「そうだわ、ロミオが今どんな顔をしているか、見に行ってやろうかしら。」

そう思い立ったジュリエットは、早速街へ微行するべく支度を整えると、侍女を従えて部屋を出ようとした。

ジュリエットが扉に手をかけようとした、まさにその時、扉が向こうから開いて、戸口に父・キャピュレット氏が姿を現した。

「お父さま、突然どうなさったの。」

「ジュリエット、どこへ行くつもりだ。」

父の表情はいつになく厳格だった。ジュリエットは、今しがたの高揚した気分が一気に白けてしまったことを忌々しく感じつつ、ひとまず室内に戻って父親の用事を聞くしかなかった。

「ジュリエット、お前がしばしば街中へ出かけては、見境なく男に声を掛け、いかがわしい所へ姿を消す光景を見たという噂が飛び交っているのを知っているか。」

ジュリエットは驚きと怒りに目を剥いた。

「何ですか、その噂は。お父さまはそのような根も葉もない噂話をお信じになるのですか?」

「私はお前を信じている。私の自慢の娘は、そんな人間では断じてない。しかし世間の目は怖いものだ。お前が外出する姿を見たら『また男を漁りに来た』と見られかねない。父は、お前がそのような目で見られることには耐えられぬ・・・。」

ジュリエットは青ざめた。ここで父親が頑迷な態度に出たのであれば反発のし様もあるが、娘を信じ、その身を心から心配する様子を見ては、いかに思春期の少女とはいっても親の言うことに従わざるを得ない。この時点で、彼女の完敗だった。

「ジュリエット。当分お前には外出を禁じる。この部屋からも一人で出ることは許さん。ほとぼりが冷め、噂が立ち消えるまでの間、辛抱してくれ。」

キャピュレット氏が去った後、ジュリエットは一人、唇を噛み締めていた。こんな噂を流した人物は、一人しか思い浮かばない。

「ロミオ、覚えていなさいよ!」

 

 

その夜、ジュリエットは一人、自室のバルコニーから中庭を眺めていた。館の反対側にあるパーティーホールでは、今日も盛大なパーティーが開かれていたが、彼女は出席を許されなかった。パーティーの明かりと月明かりで、夜でも中庭はよく見えた。半軟禁状態におかれたジュリエットにとっては、この中庭が唯一心を慰めるものだった。

「ロミオ・・・」

彼女は呟く。気がつくと、寝ても覚めてもロミオのことばかり考えている。まるで恋に落ちてしまったかのようだ。

「ロミオ、貴方はどうしてロミオなの・・・?」

キャピュレット家と仲の良いモンタギュー家の跡取り息子でなければ、いっそキャピュレット家の力を使ってでも彼を陥れることができるのに。それができたら、今以上にわくわくする大陰謀を画策できたのに・・・。でも、父はモンタギュー家との仲を裂くようなことはしないだろうし、そのようなことをしたら娘を許さないだろう。

「誰!?」

ジュリエットが叫んだ。中庭の隅で、何かが動く気配がしたのだ。やや間があって、暗がりから一人の青年が姿を現した。

「ロミオ! 貴方どうしてこんなところまで・・・」

「パーティーに来ていたんだよ。風邪をひいた父の名代でね。でも誰かさんのおかげで、パーティー会場のあちこちでこちらを見ながらひそひそ話をされるんで、すっかり居づらくなってしまってね。」

「あら、奇遇ね。私も誰かさんのせいでパーティーにも出られず、こうして部屋で庭を眺めているのよ。」

二人はバルコニーと庭で、しばし黙って見詰め合った。それは恋する男女というより、獰猛な肉食獣同士の睨み合いと言った方がよかった。

「今日のところは、してやられたわ。とりあえず、引き分けってところかしら。でも、次は負けないわよ。」

「僕だって、やられっ放しでいるわけにはいかないよ。こんな屈辱は初めてだ。」

互いに宣戦布告をすると、ロミオは踵を返し、パーティー会場の方へと去って行った。ジュリエットの胸には、先ほどまでの落ち込んだ気持ちに代わって、言い知れぬ高揚感が灯っていた。

 

 

二人の対決は、まだ始まったばかり・・・。

 

 

〜U〜

 

修道士の朝は早い。何しろ朝課(いわゆる朝のお祈り)は午前2時半から始まるのだ。まだ真夜中である。この朝課に始まり、一日の祈りは実に8回にも及ぶ。とにかく一日中祈っており、祈りの合間に食事や労働、著作活動や書物の書写などを行っているようなものである。

ここはヴェローナ市内にあるフランチェスコ派修道院である。13世紀のアッシジの聖フランチェスコに起源を持つといわれるフランチェスコ会は、もとは清貧と学問研究に励む修道会として名を馳せたが、シスマ(教会大分裂)をきっかけに政治的に利用されるようになると、修道会内部の規律は乱れ、修道会や修道士たちの腐敗が目に付くようになってきた。それに対し、規律の厳格な運用を唱える改革派(オブセルヴァンテス)が現われ、保守派(コンヴェンチャル)と対立するようになる。保守派を表す「コンヴェント」は共住・修道院といった意味で、都会の修道院で共に生活する集団を指した。

ここの修道院も保守派に属しており、ヴェローナの富豪たちによる寄付によって運営されていた。ことにキャピュレット家とモンタギュー家は毎年多額の寄付をしており、修道院にとってなくてはならないパトロンだった。

 

 

一人の老修道士が礼拝堂から出てきた。名をローレンスといい、学識の深さと温厚な人柄によって、修道院内でも何かと頼られる存在だった。ローレンスはまだほの暗い前庭に立っている人影を見てぎょっとした。

「おはようございます、ローレンス修道士。朝課でお疲れのところ、申し訳ありません。」

人影が顔見知りのものだったことを知って、ローレンスはほっと息をつき、彼へ近づいた。

「ロミオではありませんか。こんな朝早くに、いったいどうしたんですか?」

ロミオはパーティー帰りだった。ロミオは普段街で友人たちと賑やかに過ごしていたが、実は彼は本来物静かな性質だった。モンタギュー家の後継者として、社交性を身につけるためにあえて苦手な分野に挑んでいたのだが、そのような生活に疲れると彼はしばしばこの修道院を訪れ、ローレンスと静かな語らいの時間を持った。ローレンスもそんなロミオを好ましくも哀れにも思い、いつでも彼の来訪を歓迎した。

「実は、今日はキャピュレット家について教えてもらいたくて来ました。」

ローレンスの私室に迎えられ、椅子に落ち着くと、ロミオはそう切り出した。ローレンスはキャピュレット家の人々とも交流があり、モンタギュー・キャピュレット両家の事情に詳しかった。

「確かに私はキャピュレット家のことは色々知っていますが、それを簡単に他人に漏らすようなことはできませんよ。いったい何のためにそんなことを知りたいのですか?」

良識の人であるローレンスは、やはり簡単には情報を渡してくれそうにはなかった。ロミオとしても、まさかジュリエットを陰謀に嵌めるためだとは言えない。

「実は、キャピュレット家のジュリエット姫に一目惚れをしてしまいました。ですが、僕はご存知の通りよからぬ噂を立てられてしまった身。正面からキャピュレット家に乗り込んでも拒絶されかねません。そこで搦め手から彼女に直接コンタクトを取る方法がないかと思いまして。」

ものは言い様である。手ごわい相手を屈服させるためには手段を選んでなどいられないと、腹をくくったようだった。尊敬するローレンス修道士を騙すことになっても仕方がない。

ローレンスは軽く微笑み、キャピュレット家について話し始めた。

 

 

ロミオが修道院を去った後、30分もしないうちに次の客人がローレンス修道士のもとを訪れていた。ジュリエットである。昼間に外出することができなくなった彼女は、この時間に密かに館を抜け出すしかなかったのだ。

「何が可笑しいのですか、ローレンス様。」

「あ、いえ、何でもありません。失礼しました。」

ローレンスは慌てて威儀を正した。我知らず微笑を浮かべていたらしい。今朝はまた若い客人が次々に訪れるものだと思っていたのだ。

ジュリエットはモンタギュー家の情報をローレンスにせがみ、ローレンスは今度はあっさりとモンタギュー家のことを話した。彼はこの若い二人の幸福な未来を純粋に信じていたのだった。

 

 

それぞれが策略を巡らし、結果が表面に現われたのはそれから1週間後だった。内陸都市でありながら、ヴェローナの主産業は商業であり、地中海への出口であるヴェネチアとの良好な関係は不可欠のものだった。ところがヴェローナにとって生命線ともいえるヴェネチアにおいて、キャピュレット家の評判が急激に悪化しだしたのである。

これはロミオとジュリエットそれぞれの画策によるものだった。彼らは、まずキャピュレット・モンタギュー両家の関係を悪化させるため、キャピュレット家に不利になるような情報をヴェネチアで流し、それがモンタギュー家のしわざであると思わせるように仕向けたのだ。期せずして二人が同じ策を実行することとなり、その効果は倍加した。

案の定、この事態に激昂したキャピュレット家がモンタギュー家にクレームをつけ、それを言いがかりととったモンタギュー家との間に鋭い対立関係が生じた。長年良好を保ってきた両家の関係は、こうして急速に冷却した。

 

 

ティボルトはキャピュレット夫人の甥、つまりジュリエットの母方の従兄に当たる。彼はジュリエットに甘く、彼女の言うことなら何でも聴いた。

「何だと、つまり今回のことはすべてモンタギュー家のロミオのしわざだというのか。」

「ええ、ティボルト。ロミオは希代の陰謀家だわ。彼がこのままモンタギュー家を継いでしまったら、キャピュレット家はおしまいよ。」

「なんてことだ・・・!」

人のいいティボルトはジュリエットの言い分をあっさりと信じてしまった。

「それなら、伯父上に報告して奴をなんとかしないと・・・。」

「ダメよ。そんなことをしてもロミオの策略には勝てないわ。お父さまに話しても、ご心労を大きくするだけよ。」

これでティボルトは誰にも相談できなくなってしまった。悩んだ挙句、彼は決心する。ロミオを殺す、と。

 

 

一日、ロミオはヴェローナ太守・エスカラス公爵を訪れ、満足感の中で一人帰路についていた。その途中で、彼は人だかりに遭遇した。どうやら喧嘩をしているようだった。人波を掻き分けると、そこにはロミオの幼馴染のマキューシオとロミオの従弟のベンヴォーリオがいた。彼らはどうやらキャピュレット家のティボルトと喧嘩をしているようだった。

「いったいどうしたんだ、ベンヴォーリオ。」

「あ、ロミオ。お前は来ない方がいいぞ。」

「どういう意味だ?」

「ティボルトの奴がロミオの悪口を言って『ロミオを出せ』『逃げるとは臆病者め』とか、難癖つけているんだ。」

「ティボルトが? 珍しいな。」

人のいいティボルトがそんな一方的に難癖をつけているところなど、見たことがない。身に覚えのない言いがかりをつけられて、カッとしやすいマキューシオが怒ってしまったようだった。

そうこうするうちに、ティボルトとマキューシオは剣を抜いてしまった。

「馬鹿、何をやってるんだ!」

慌ててロミオが飛び出した。ティボルトは目的のロミオを見つけて、怒りを新たにした。

「おう、臆病者のロミオがようやく登場か。手下の影に隠れていないで、尋常に勝負しろ!」

「誰が手下だ! ロミオ、お前は出てくるな。こんな奴は俺一人で・・・」

一瞬だった。マキューシオの注意がわずかに背後のロミオへ向いた瞬間にティボルトがマキューシオを刺したのだ。

「卑怯だぞ、ティボルト!」

ベンヴォーリオが叫んだ。ティボルトは血走った眼をロミオに向けて、残忍な笑いを浮かべた。普段の温厚な彼からは想像だにできない光景だった。ロミオは背筋を冷気が走るのを感じた。

「ロミオ、マキューシオの仇を取ってくれ!」

「そうだ、兄ちゃん。やれやれー!」

ベンヴォーリオの叫びに応じて、ギャラリーが煽る。彼らはただ派手な喧嘩を見たいだけだ。ロミオは前面のティボルトと背後のベンヴォーリオ、そしてギャラリーに完全に包囲されて、逃げ出すこともできなかった。いつの間にか剣を抜いていた。自分が身の危険を感じていることに、今さら気づいた。

「卑怯者のロミオ、お前を生かして帰しはしないぞ!」

ティボルトが剣を手に突っ込んでくる。どうやってかわしたのか、泡を食っているロミオにはもはやわからない。とにかく生き残るため必死だった。

「やったぞ、モンタギューの倅の勝ちだ!」

ギャラリーの叫び声で我に返ったロミオは、足元で血を流してうずくまるティボルトを見た。助かった。最初に心に浮かんだのはその思いだった。次の瞬間、彼は顔色を失った。彼は衆人環視の中で人を殺してしまったのだ。これがジュリエットの策略であることを、ロミオは本能で悟った。

しかし彼女は詰めを誤った。ロミオの傍らにはベンヴォーリオがいる。彼がロミオの正当防衛を証言してくれるだろう。そうすれば、彼の仕掛けた策が生きて、ジュリエットは今度こそ破滅する・・・。

 

 

やがて、通報を受けて太守のエスカラス公爵が自ら姿を現した。公爵は現場の状況を確認すると、間近で見ていたベンヴォーリオに証言を促した。

「ロミオは剣を抜くと、卑怯にもいきなりティボルトに斬りかかり、一方的に殺しました。」

ロミオは愕然として振り返った。ベンヴォーリオはマキューシオの死には一切触れなかった。それどころか、なぜかいつの間にか半分以下に減っていたギャラリーも、誰一人ロミオの弁護をしようともしない。

ジュリエットに抜かりはなかった。ベンヴォーリオは既にジュリエットによって買収されていたのだ。それだけではなく、このギャラリーには彼女が手配したサクラが半分近くも混じっており、ここに残っていたのはそのサクラたちであった。ロミオはついにジュリエットによって窮地に追い込まれてしまったことを知った。

 

 

その頃、ひとり自室で北鼠笑むジュリエットの身にも、ロミオの策謀が迫っていた。

 

 

 

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